January 22, 2006

東野圭吾『容疑者Xの献身』

容疑者Xの献身容疑者Xの献身
東野 圭吾

文藝春秋 2005-08-25
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読みました。
面白かったです。たいへん素晴らしいミステリと思います。
トリックは分かりやすかったですね。倒叙モノに慣れている人ほど気づきやすいのかな。
トリックに気づくか気づかないかで感動の度合いが違うかもしれない。そんな作品です。
僕が特に気に入ったのは19章目ですね。最終章で書くべきことをきちんと書き、良い終わり方をさせる。さすがだなと思いました。(←ん? 偉そう)
とても完成度の高い、傑作ですね。

結局、石神が花岡母娘に抱いていた感情は、恋愛感情ではなかった、ということですよね。いや「崇高すぎる恋愛感情」といっても良いかな。決してどちらか一方にではなく、母娘に対する感情ですよね。僕はそういうふうに捉えたからこそ、無私の献身が納得できました。

あう。上のように書きましたが、パラパラとめくってみると、やはり石神は花岡靖子に対して恋愛感情を持っているようですね。しかしそうなると納得できないなあ……。
一方的に恋愛感情を抱いているだけで、自分を犠牲にしてまで相手を救えるか。そこまで深く愛すことができるのか。これが恋人同士、夫婦ならまだわかる。お互いに愛し合っているのなら。

あーー、僕はバカだ。花岡母娘に対する崇高な感情+靖子に対する恋愛感情、この両者が合わさって石神の中にあった。そうだとすると、納得できますね。というかそうとしか読めませんね。

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September 29, 2005

サン=テグジュペリ『星の王子さま』とルイス・キャロル『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』

を読んだ。
『星の王子さま』は、中学のとき、いちど読んでいた。けっこう内容を忘れていた。
キツネがいいことを言っているのに気がついた。
平行して『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』も読んだ。
どっちも初読。たいへん面白かった。
『星の王子さま』は教訓的なお話だけれど、『アリス』は論理の楽しさを追求したお話。『星の王子さま』は「泣ける」が『アリス』は「笑える」。対照的だ。

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September 16, 2005

ナーゲル&ニューマン『ゲーデルは何を証明したか』と「悪魔の星」

を読んだ。
非常に分かりやすかった。ゲーデルの不完全性定理に興味がある人に強くお勧めしたい。
かなり簡略化された形だと思うが、証明のあらすじを追ってあって、それがまた分かりやすかった。驚異的なくらい分かりやすい。
数式は極端に少なく、文章で丁寧に説明してあるので、僕のような、数学の素養がない文系人間にも理解できた。

パズルコレクション2号を買った。今回は「悪魔の星」。
組み立てるのが難しい……らしいのだが、そんなに難しくないじゃん。5分くらいで分かったよ。うーん。これで1000円かあ。

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September 11, 2005

佐々木俊介『繭の夏』

4488433014繭の夏
佐々木 俊介

東京創元社 2001-06
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繭の夏
繭の夏
posted with 簡単リンクくん at 2005. 9.11
佐々木 俊介著
東京創元社 (2001.6)
通常2??3日以内に発送します。

を読んだ。
面白かった。
捜査をしていくうちに、徐々に過去の事件の全貌が明らかになっていく。その過程が非常に巧みだと感じた。
しかし、ややみんな探偵ごっこに協力的過ぎる気もする。
僕は読書感想を書くのがあまり上手でなく、とくにその作品の面白さを伝えるとなるとぜんぜんできない。なので、ネタバレで書きます。未読の方は読まないように。
アンテナで伏せ字が見えないように、スペースを開けます。












(ネタバレ)ネットで感想を巡ってみた(疲れた)。「後味が悪い」という意見が多く、僕もそう感じたのだが、それがどこから来るのか考えてみた。もともと夕季の死は他殺かもしれないという疑惑があったのだから、単に殺されたという事実が後味を悪くしているのではない。その犯人がある人物だったということも、もともと考えられていたことだ。動機の異常さは後味の悪さには繋がらないだろう。後味の悪さは、明らかに、終章における藤森咲江のルサンチマン感情の爆発から来ている。「……突然何を言い出すんだって思ってるでしょうね。」から始まる彼女の長いセリフだ。藤森咲江は自分の容貌にコンプレックスを感じるあまり、友達づきあいしていた水島悦子を大嫌いだったと言う。咲江は周囲の人間から「優しい」人間だと思われていた。とくに祥子と敬太郎は咲江を非常に慕っていた。ところが、「優しい・思いやりがある・控え目」という評価を、彼女がねじけたやり方で受け止めいていた――自分の「醜さ」に対する差別的・同情的な態度だと受け取っていたことが、この長いセリフからわかる。さらに藤森咲江は、犯人を脅迫し、関係を持つことで、悦子に対する優越感を得たいと言い出す。かなり醜い考え方だ。これが非常に後味を悪くしている。天使のような心を持っていたはずの人が、実は、陰湿なルサンチマンを胸に抱えていたことが分かってしまう。祥子や敬太郎はきっと裏切られたような気がしただろう。読者もきっと裏切られた感じがすると思う。
ところが、このシーンは、祥子か敬太郎かの、夢の中の出来事と捉えるべきだと僕は考える。いわゆる本当の、地の文ではない。ある人物は、何らかの告白をしただろう。その話を「あまりにも辛すぎる真実」と彼らが捉えたことは事実だが、それが具体的にどんなものだったかは書かれていない。つまり夢の中のシーンには、幾分かの誇張が含まれているかもしれないのだ。なにしろ夢だから。また、ある人物が本当に真実を語った、という保障は、実のところ何もない。実際、咲江を殺したのだが、罪を逃れる――というよりは告発を逃れるために、嘘をついたのかもしれないのだ。
もしかしたら誤解かもしれないが、そのように読むことができる。そう考えると、そんなに後味は悪くならない。

別の話だが、あるトリックには『模像』と通じるものを感じた。これはやっぱり著者が演劇に関わる人だからかな。(ここまで)

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September 06, 2005

麻耶雄嵩『神様ゲーム』

4062705761神様ゲーム
麻耶 雄嵩

講談社 2005-07-07
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神様ゲーム
神様ゲーム
posted with 簡単リンクくん at 2005. 9. 6
麻耶/雄嵩??著
講談社 (2005.7)
通常24時間以内に発送します。

を読んだ。
面白かった……ただ、もう少し、何かが物足りない気がしないでもない。ミステリ的な仕掛けのインパクトがやや弱いかな。物語的には、神様が登場したり、いろいろあったりで、インパクト十分なのだけれど。
ネタバレで語ります。完全ネタバレです。
(以下ネタバレ)最後は真相をはっきりと提示しない曖昧な終わり方をする。ネタバレ掲示板を見て、自分の考えをまとめてみた。
まず、ろうそくの炎が奇妙な飛び方をしたことから、それが事故などではなく、神様の天誅であることは間違いない。だから、鈴木は神様で、共犯者は「ぼく」の母親。「ぼく」の母親はどこに隠れていたか。物置には足跡がなかったから駄目。「ぼく」の母親は体が小さかったという表現があるので、おそらくたらいの中だ。
しかしそう考えるとなぜ物置に隠れなかったのかが分からない。物置に隠れるほうが安全だし、自然だと思うのだけれど……。
それに子供がやっと隠れられるたらいに「ぼく」の母親が隠れられるというのも釈然としない。それならば、もう少し明確な表現で具体的にどれくらい体が小さいか書いてよ、と思う。
(ここまで)
ジュヴナイルとしては文句なしに失格、ミステリとしてはまあ満足できる程度、エンタメ小説としてはダークな魅力があってかなりいい。
というわけでそれなりに満足できました。

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富永裕久『図解雑学 パラドクス』

4816336915図解雑学 パラドクス
富永 裕久

ナツメ社 2004-02
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パラドクス
パラドクス
posted with 簡単リンクくん at 2005. 9. 6
富永 裕久著
ナツメ社 (2004.3)
通常2??3日以内に発送します。

を読んだ。
パラドクス(paradox)はオーソドクス(orthodox)の対義語で、「逆説」を意味する。
「逆説」とは何かというと、この本によれば、
1、相互に矛盾する命題が、ともに帰結しうること。また、その命題。
2、直感的に正しく思えるが、実は誤りである論理。
3、直感的には誤りに思えるが、実は正しい論理。
だそうだ。
いろんなパラドクスが図を駆使して分かりやすく解説してある。
有名な「アキレスと亀のパラドクス」からカントールの集合論の話まで幅広く扱ってある。ミステリで逆説といえばチェスタトンだけれど、さすがにチェスタトンには触れていない。
パラドクスに興味がある人にお勧め。

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September 04, 2005

小阪修平『図解雑学 現代思想』

4816336826図解雑学 現代思想
小阪 修平

ナツメ社 2004-03
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現代思想
現代思想
posted with 簡単リンクくん at 2005. 9. 4
小阪 修平著
ナツメ社 (2004.4)
通常2??3日以内に発送します。

を読んだ。
難解な現代思想を平易な表現で分かりやすく解説してある。思想的な背景が分かるので、現代思想の潮流の必然性が把握できる。
「現象学的還元」「差異の体系」「同一性/差異」「構造主義」「テクスト」「エクリチュール」「リゾーム」「シミュラークル」「脱構築」「エピステーメ」「相互テクスト性」……などなどの、難解な哲学用語も、これを読めば、すんなり理解できるはず。
「どういう意味か分からんけれど、手っ取り早く知りたい!」という方にお勧めです。

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July 21, 2005

林泰広『The unseen 見えない精霊』

4334074669The unseen見えない精霊
林 泰広

光文社 2002-04
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The unseen見えない精霊
林 泰広
光文社 (2002.4)
通常1??3週間以内に発送します。

を読んだ。
不可能犯罪で大事なのは、マジックで言うところの「あらため」だ、と山口雅也氏が書いていたが、この作品は9割くらい「あらため」に費やされている。この「あらため」が非常にまわりくどい説明で、読んでいて余計混乱してしまう。もう少しスマートに不可能性を説明してほしかったなあと思った(「読者への質問状」ではシンプルに説明してある)。そうやって、ロジックをこねくり回すのがこの作品の魅力なのかもしれないけれど。
トリックは分かった。これしかないだろう、というものだったので。
飛行船のシステムが人工的なのが気になった。たとえば、30秒しか明かりがつかないとか、一方からしか開けられないドアとか、そんなもの本当にあるのかなあ、という気がした。村人たちが嘘を見抜ける、というのは、設定としてなかなかおもしろいと思う。
活字で表現されたマジックショーというべき作品。マジックが好きな人、不可能犯罪が好きな人は楽しめるのではないか。

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July 18, 2005

エド・マクベイン『殺意の楔』

4150707596殺意の楔
エド・マクベイン 井上 一夫

早川書房 2000
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殺意の楔
殺意の楔
posted with 簡単リンクくん at 2005. 7.18
井上 一夫 / McBain Ed
早川書房 (1979)
通常2??3日以内に発送します。

を読んだ。追悼として。
マクベイン初挑戦。
ニトログリセリンの小瓶と拳銃を持った女が87分署の刑事部屋を占拠した。女はキャレラを逆恨みしていて、キャレラを殺すために来たと言うのだ。一方、キャレラは不可解な密室殺人を調査していた。
サスペンスと謎解きが同時進行で進むのだけれど、やっぱり謎解きは薄味。密室トリックの着想はおもしろい。しかし危険性が高いと思うので、そこの部分をもっとうまく処理してあれば良かったのに、と感じた。
終わり方は、なかなか良い。ネタバレキャレラののほほんぶり、小瓶の中身が判明するところここまで。
すこしドラマっぽいというか、ハリウッド映画っぽい通俗味があるものの、気楽に読むにはたいへん楽しい本だと思う。(199ページから203ページまでの一節が気に入った。)

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July 08, 2005

北村薫『ニッポン硬貨の謎』

ニッポン硬貨の謎
4488023827北村 薫

東京創元社 2005-06-30
売り上げランキング : 3,444

おすすめ平均 star
star巨匠クイーンへの敬愛の念がひしひしと伝わってきます
starパスティーシュの新たな傑作

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を読んだ。
最初の数節は鳥肌が立つ。まさにクイーンが書いたとしか思われない文体に、名文、名言のオンパレード。ここを書くときには、北村氏に「神」(クイーンのこと)が降りていたに違いない。とくに犯人が最初に登場する一節などは神がかりな見事さである。しかもその流麗なる文章のかげに伏線がきちんと仕込んである。
中盤の圧巻は、「シャム双子」論。クイーンはこういうことをやる作家なのだ。なにしろ二人二役までやった作家なのだから。挿話として捉えてしまいそうなこのシーンも実は伏線なのだ。
≪魔法の言葉≫にまつわるクイーンの推理は、本格ミステリのそれとしか言いようがない。≪魔法の言葉≫によって「ありえないこと」が起きる。一瞬、虚構が現実になったかと錯覚してしまうようなことだ。つまり≪魔法の言葉≫がおもしろい現象を生む、というそのことが、「本格」だ、と感じさせる部分なのだ。これも一種の謎と解決の妙と言っていいんじゃないか。
そして見逃してはならないのは一種の叙述(?)トリックだ。これも上の部分と密接に関わってくるのだが、読者はそこで騙されるからこそ、クイーンの上の推理にハッとすることができるのだ。
犯人の動機は「天上の論理」が支配した奇妙なものだった。これについては僕が後期クイーンをほとんど読んでいないので、あまり言及しないほうがいいかもしれない。「訳注」を読んでみると、こういうタイプのものが後期クイーンには多いのかな。
これまで書かれたクイーンのパスティーシュの中で最高級の作品であることは間違いない。クイーンファンは必読だー!

クイーン論の続きを読みたいなぁ。

表紙の50円玉には日本地図と本格おじさん、裏表紙の50円玉にはダネイとリーが隠れている。どれも昭和52年製なのは、ダネイが来日したのがその年だからだろう。

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June 21, 2005

東野圭吾『ある閉ざされた雪の山荘で』

4061859099ある閉ざされた雪の山荘で
東野 圭吾

講談社 1996-01
売り上げランキング : 39,424

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ある閉ざされた雪の山荘で
東野 圭吾 / 東野 圭吾〔著〕
講談社 (1996.1)
通常2~3日以内に発送します。

を読んだ。
プレ競作でとりくんでいるミステリと似ていたので、その資料として読んだのだが、予想以上に面白かった。
僕の苦手な奇抜な設定だったので、最初は作品世界に入り込みにくかった。俳優たちが山荘で即興芝居として殺人劇を演じろと命じられるのだが、そんな奇妙な命令に素直に従うのにも納得できなかったし、殺人かもしれないと疑いだしたとき外部と連絡を取らないのも不自然だと思った(いいわけはあるけれど)。僕は論理の細かい矛盾よりも人間性の矛盾が気にかかるので。
しかし最後まで読んで、手がかりや伏線に感心する部分が多く、非常に感心しました。あのトリックのために、あれをああしたり、そこをそうしたりするのが、読者に対する手がかりの提示の仕方として秀逸で、本格ミステリとして技術点が高い。
好みが別れる作品かもしれませんが、僕は好きです。

「ですます調」と「だである調」が混在しているのはわざとです。

アマゾンとbk1の両方にリンクを貼りたいのだけれど、画像が並んで見栄えがよくない。でもテキストリンクだと表紙が見えないしなあ。

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June 15, 2005

謎はすべて解けた

4063125513金田一少年の事件簿 (Case1)
天樹 征丸

講談社 1998-05
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を読んだ。
犯人はダイイングメッセージでわかった。そこから芋づる式にほとんど分かってしまった。
こういうことがあるからダイイングメッセージはよくないね。
しかしミステリの基本はきっちり押さえてあるし、設定は面白いし、グイグイ読ませるし、『金田一』はやはりハイレベルなミステリ漫画だと思う。基本を押さえることがいかに難しいか!
絵は昔と変わっていない。最後が「泣かせる動機の告白」であるのも、変わってないなあ。でもちょっと泣きそうになったよ。

プレ競作に出すものは難航しています。
とてもあの流れからは予想できないような奇抜な着地点を目指しているのですが、ふと、自分はものすごく馬鹿馬鹿しい話を書こうとしているのではないか、という気持ちに襲われます。
そう思うともう書けないですね。
苦労していますがなんとか完成させます。ジッチャンの名にかけて!
電ミスはこちらです。非会員の方も読めますので、ぜひ第三回リレー小説読んでみてください。

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May 31, 2005

『扉は閉ざされたまま』批評

密室が開かれないまま解決する(犯人を推理する)のがすごい、という評価があるらしい。
しかし窓から覗いて密室の中を見ているわけだし、犯人を推理した手がかりはその部屋の中の手がかりだ。
どうせ密室を破らないままで終わらせるという設定にするのなら、窓から覗かせるなよ、と言いたい。完全に現場を見ずに推理させたほうがずっといい。いちばんやりたいアイデアで、徹底したところがなく、妥協しているのがダメなのだ。
それに現場を見ずに伝聞だけで推理するなんて、ざらにある。安楽椅子探偵だ。作者は「安楽椅子探偵」のことを忘れていたのだろうか? 自分は前代未聞のすごいことをやっていると思っていたのだろうか? 
手がかりが少ないことを褒めている人もある。しかし手がかりなんて少なくて当たり前。ロジックものはたいてい少ない手がかりから推理する。(この作品の「ロジック」は推測だが。)書いてみればわかるが手がかりが少ないミステリを書くのは容易なことなのだ。要はその手がかりからどのくらい面白い推理が出てくるか、どれほど確実なロジックが出てくるかなのだ。この作品にはつまらない憶測・推測しかない。
たとえば、(ネタバレ)ぜんぜん「チェックメイト」ではない最後の推理は、曖昧すぎるつまらない推理で殺人ではないかと疑い、犯人が密室にした理由を憶測し、そこから犯人の動機を憶測している。憶測だらけだ。憶測に基づく推測だ。チェックメイトどころか逃げ場だらけだ。犯人が密室にしたのは単に殺人の可能性を排除するためだったら? 隠れた動機があったら? この程度が倒叙ものの解決編だろうか?(ここまで)
作者はおそらくレトリカルで曖昧な(言葉でごまかす)ロジックを、単純で自明なロジックよりも上においているのだろう。実際は単純で自明なロジックのほうが作るのは困難なのだ。なぜなら誤魔化しが入る余地がないから。読者に気づかれないで、なおかつ決定的な「証拠」でなければならないから。はっきり言ってコロンボのほうが格上だろう。倒叙の基本がまったくなっていない。
いままで読んだミステリの中でワースト1だ。

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May 29, 2005

石持浅海『扉は閉ざされたまま』

扉は閉ざされたまま
石持 浅海
祥伝社 (2005.5)
通常24時間以内に発送します。

を読んだ。

駄作。

つまらない。石持という作家はロジックがうまいと聞いて期待していたのだが、まさかこんなにつまらないとは。この程度の推理のどこがロジックなのだろう? 並みの推理をレトリカルにしただけだ。
ロジックはレトリックではない。少なくとも僕がよいロジックだと感じるのはレトリックを感じさせないロジックだ。レトリックでしかない「ロジック」は詭弁に過ぎない。僕は懐疑派なので、推理を読むときはまず疑ってかかるのだ。推理の過程に疑わしいところがあり過ぎ。法月、有栖川、氷川の足元にも及ばない。ロジックをやるのなら少なくともクイーンくらいは読んでおかないと(当然読んでいると思うが)。
僕がロジックを好きなのはロジックが普遍的だからだ。独りよがりで恣意的に結論を導こうとする推理はロジックの名に値しない。
それからロジックに面白さがない。凡庸すぎる手がかりと推理。論理の魅力がまったく感じられないのだ。
ロジックに関しては僕の期待が大きすぎたということでよいけれど(しかし本職の作家でロジックを売りにしているのにこの程度とは呆れる)、いちばん気に食わないのは、「高潔な」犯人。この犯人像と、探偵vs犯人の心理戦は『デスノート』のパクリとしか思えない。
人一人殺しておいて何が高潔だ。この作者にとってはキチガイじみた動機でも犯人の殺人は高潔に映るのだろう。
僕は『デスノート』の夜神月が嫌いなのだ。正義ぶって神の真似事をする。一人でも、無実の罪に問われている人間を殺したらどうするのか? 本当にまともな人間ならデスノートを燃やすはずだ。僕はこういう自称「高潔な」「正義漢」が大っ嫌いなのだ。狭隘で歪んだ「道徳」しか持たない人間は道徳をまるで持たない人間と同じくらい危険だ。犯人は自分を高潔な人間だと思うためには、人を一人殺すことなどなんとも思わないのだろう。
それから『デスノート』の心理戦の模倣であることもダメ。僕は『デスノート』は嫌いではないが、あの心理戦をそのまま倒叙ミステリに持ち込むことが作家として安易過ぎるのだ。その結果、空理空論の無駄としか思えない内的独白(こんな議論を作者が付け加えることなど容易だ)が長々と展開される。
倒叙ミステリを書くのなら倒叙の基本くらい押さえてほしい。倒叙でもっとも大事なのはラストで犯人が殺したと立証される場面だ。そこでの論理に曖昧な部分や飛躍している部分が多すぎるのだ。まったく決定的じゃない。あの程度のことで自白する人間などいない。
犯人の動機に納得できなかったので、扉を封鎖した理由にも感心できなかった。それをやるんだったら、殺して森の中に埋めたほうが早いのではないかと思った。死体が発見されなければもっとよいだろうし。
とにかく僕の見るところでは駄作である。

bk1にトラックバックを飛ばしたが消されてしまった。酷評は受け付けないのかなあ。
トラックバックが反映されてしまった。ああ……やめときゃよかった……。
政宗さんの大手サイトと並んでしまったし……。個々みたいな弱小サイトが……。削除してもらおうかな。

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May 23, 2005

黒田研二『ウェディング・ドレス』


を読んだ。
面白かった。ボルヘスの「八岐の園」で語られた小説のようだ。結婚式を境に二つに世界が分岐する。パラレルワールドはどう繋がるのか? 
トリックは見当がついたが完全にはわからなかった。作者も半分くらい当てさせるつもりで書いているのだと思う。
密室トリックはお馬鹿で、すごかった。思わず笑ってしまった。
個人的には、安っぽい部分と深刻な部分がよいバランスで混ぜられているのが好印象だった。
伏線の敷き方も巧みだと感じた。表紙も伏線になっているし。
とにかくこの密室トリックはなんというかすごいよ。

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May 18, 2005

岡嶋二人『そして扉が閉ざされた』


を読んだ。
クローズドサークルもの。といってもそこで殺人が起こるのではなくて、推理するという話。クローズドサークルというより一種の密室劇か。
こういう奇抜な設定は僕はあまり好きじゃないのだけれど、まあ面白かったです。
いまいち乗り切れなかったのは、視点人物である雄一が気に入らなかったからでしょう。
雄一の言葉「ほんとに大切なことに意味なんかないよ。面白い、くだらねえ、好きだ、嫌いだ、うれしい、かなしい、そういう感覚があるだけだ。感覚に意味なんかつけないでもらいたいね」
そもそも雄一が咲子を振らないで正志の許婚者である鮎美にちょっかいを出したから事件が起きたのであって、なのに雄一はそれをちっとも反省していない。雄一の「論理」によれば、自分の鮎美に対する恋愛感情が本物だから、それは正当なことだ、というわけだろう。
要するに雄一は自分勝手なだけだ。物事に意味はない、感覚があるだけだという雄一だから、自分の感覚がすべてを正当化すると思っている。僕はこういう発想にはまったく賛同できない。僕は、むしろなんらかの「意味」のためには、感覚を犠牲にすることがやむを得ない場合もあると思っている。
僕が雄一の立場だったらきちんと落とし前をつけて次の段階に進むだろう。もし自分のために悲劇が起きたら反省するだろう。
しかし、雄一はもてやがるのだ。感覚が意味になる者は幸いなるかな、である(笑)。
ともあれ、ちょっとした面白い仕掛けがしてあるので、一読の価値はあるでしょう。

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May 16, 2005

ウィリアム・カッツ『恐怖の誕生パーティ』


を読んだ。
ロープライス1円?
『恐怖の誕生パーティ』と題名は安っぽいが中身は堅実なサスペンス。
最後にサプライズがあるということを聞いていて、身構えて読んだ。どんな叙述トリックが使われているのだろうといろいろ推理をめぐらしながら読んだのだが、ラストにはあまり……というかまったくビックリできなかった。
サスペンスでも鵜の目鷹の目で読んでしまうのがミステリ読みの悲しさ。伏線を捉えることができたので予想の範囲内の「サプライズ」だった。
しかしサスペンスとしては面白かった。
期待し過ぎたかな。

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May 13, 2005

ジュリアン・シモンズ「二人のエラリイ・クイーンの秘密」

ジュリアン・シモンズ『知られざる名探偵物語』

の中の「二人のエラリイ・クイーンの秘密」を読んだ。他のはまだ読めない;。
ミステリじゃないからネタを明かしてしまうと、「探偵クイーンは二人いた」説を展開する評論。『中途の家』までがエラリーで、以降の作品に登場する「エラリー」はエラリーの弟ダニエルだというのだ。
ダネイ(作家クイーンの片割れ)自身はこの説には反対で、前期と後期のクイーンに違いが見られるのはエラリーが成長したためだ、と弁明している。
僕も二人いるというのはちょっと嫌だなと思う。僕はクイーンのシリーズを、「探偵エラリーが成長していく物語」と捉えているので、変化は当たり前と思っている。むしろその変化がなぜ起こったか、どのように変化したかを読み解くのが面白いと感じる。
しかしこういう遊び心に満ちた評論は大好きだ。


エラリー・クイーン『世界の名探偵コレクション7 エラリー・クイーン』

を読んだ。
収録作は「黒の一ペニー切手の冒険」「いかれ帽子屋のお茶会」「暗黒の館殺人事件」「人間が犬を噛む」「世界一下劣な男」「ダイヤモンドを二倍にする男」「芸術としての殺人」。
最後の三つだけが他の本に入っていないオリジナルの収録作。他のはすでに読んでいた。以下ミニコメ。
「黒の一ペニー切手の冒険」……捻りが効いた作品。手がかりもシンプルでいい。しかし並の出来かな? 少し読みにくい。
「いかれ帽子屋のお茶会」……これは面白い。悪乗りしすだが、好きな作品。
「暗黒の館殺人事件」……『暗黒館の殺人』ではない(笑)。トリックは見当がつくが、あれの使い方がうまい。
「人間が犬を噛む」……間違い殺人ものだが、このパターンにこういうのもあるのか!といううまい作品。伏線もばっちり。
「世界一下劣な男」……ラジオドラマの脚本。面白い。ラジオドラマでもきちんとつぼを押さえて仕事しているのは好ましい。
「ダイヤモンドを二倍にする男」……同じくラジオドラマ。かなりよくできている。が、よくできすぎていて分かりやすいか。一読の価値あり。
「芸術としての殺人」……エラリー・クイーンとバーナビイ・ロスの共同講演に向けて、エラリー・クイーンが雑誌に発表したエッセイ。二人でニヤニヤしながら書いたのでしょう。この講演の内容は記録に残っていないのかな?
あと森英俊氏の解説は多面的なクイーンを短くまとめていて良いです。
クイーンファンにはお勧め。しかしオリジナルの収録は最後の三つだけだから書店で立ち読みするのもいいかもしれない。立ち読みはそもそも良くないかな? 僕はブックオフで100円で買いました。

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May 11, 2005

アントニイ・バークリー『第二の銃声』


を読んだ。
面白かった。
有名な序文には、来るべき探偵小説は、数学的であるよりも心理学的であることによって読者をひきつけ、whoよりもwhyに重点がおかれるべきだ、という意味のことが書いてある。なるほどとは思うものの、心理を書きすぎるとフーダニットとしては弱くなるというのが僕の考えだ。この『第二の銃声』でも、僕はある一節を読んで、容疑者を大幅に減らすことができた。心理が巧みに描かれすぎていたからだ。(ネタバレ)犯人だったらしないだろうなということを多くの人がやっている。特に第七章。(ここまで)だから犯人を当てるのは容易だったし、そこからトリックも予想できた。探偵小説(フーダニットの)では、心理を描くときは作者はきわめて慎重な筆遣いをしなければならないと思う。
しかし、バークリーはそのことに自覚的であったのに、あえて探偵小説の興味よりも、心理の面白さのほうを優先したのかもしれない。序文はそのように読むこともできる。このへんはクイーン(特に初期の)の行き方と真反対なわけだ。(クイーンは登場人物の心理を描くときに客観的に描く。それはフーダニットを完璧にするために必要だからだ。)
事件そのものはシンプルすぎるくらいだ。謎解きとしての面白さはあまりない。ただ登場人物たちのそれぞれの思惑が錯綜して、事件の結果(というか捜査の過程?)を複雑にしている。このへんの心理描写はうまい。事件よりも登場人物の心理が複雑すぎるくらいだ。
多重解決ものとしては推理の根拠があいまいすぎるのであまり面白さはない。多重解決がつまらないのは、手がかりはほとんどなく、ほぼ全員にアリバイが成立していない状況だからだろう。誰が犯人であってもおかしくない状況で多重解決をされても面白く感じられない。真相も推理によって明かされるのではないので、推理の面白さはない。(クリスチアナ・ブランドの某作の自白合戦のアイデアはたぶんこの作品が元ネタなのだろう。)
真田啓介氏の解説は非常にためになる。作品を読み解く上で必読だろう。しかし一点気になることが。序文とこの作品が結びつきにくいとしてあるが、僕の印象ではそう感じなかった。この作品を複雑にしているものがあるとすれば、それは犯人のトリックでも、作者のトリックでも、手がかりによる推理でもなく、登場人物たちの心理だと思う。そして面白くしているのも、心理だと思う。彼らは勘ぐったり怯えたり勇気を出したり企んだりして事件をどんどん複雑にしていく。さまざまな思惑が錯綜するところこそ、バークリーが書きたかったことではないかと思う。だからこの探偵小説のキモは殺人事件をめぐる心理だと感じる。その心理は深刻ぶることなくあくまでユーモアを持って綴られ、また探偵小説の謎解きのように複雑な心理だが、面白いし見事だと思う。
というわけで非常に面白かったのでお勧めです。
まだバークリーはぜんぜん読めていないのでこれから楽しみだ。

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May 08, 2005

笹沢左保『暗い傾斜』


を読んだ。
トリックはかなり早い段階でわかった。今の読者なら事件が起きたらすぐに見当がつくと思う。通俗なメロドラマ調の展開にうんざりし、ばればれなトリックと犯人に退屈しながらも、最後まで読むことができた。
期待して読んだのだが、いまいち、という感じ。良くできた作品だとは思うが驚きがない。
しかしラスト2ページで少し評価が上がった。(以下ネタバレ)最初の一節が叙述トリックだと分かったからだ。こういうきれいな終わり方は好きだ。終わりよければすべてよし。(ここまで)
もう少しとんとん拍子に話が運べばもっと評価できたかもしれない。描写がくどく、雰囲気も古く、時代を感じさせる作品だ。
僕の本格の物差しからするとまだまだぬるいかな。もう少し情より知に重点がおかれていたほうが僕好みだ。

はてなアンテナってネタバレ伏字が見えてしまうんですね。

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May 04, 2005

仁木悦子『猫は知っていた』

 
を読了。
僕は講談社文庫の古本で読みましたが、同じ講談社から出ている江戸川乱歩賞全集のカップリング本のほうが現役なので入手しやすいかもしれません。
面白かったです。とくに凄いトリックがあるわけではありませんが、ほのぼのとしていてよかったです。
途中の推理もロジカルでよかったですね。
伏線やミスディレクションなど、細かい気遣いがたくさんあり、そういったところを読了した後で見つけていくと、非常に丁寧に作られていることがわかります。
文体もまったく古さを感じさせません。
こちらに登場人物表があります。
『林の中の家』や『二つの陰画』も読んでみたくなりました。

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May 02, 2005

山村美紗『花の棺』


を読んだ。
内側から施錠された茶室で、華道界の<京流>家元が毒殺された。茶室の周囲の雪には足跡がなかった。
二重密室だが、足跡のトリックは脱力もの。それにひきかえ茶室の密室トリックは秀逸で、これを知るだけでも読む価値はあるかも。小ネタだし、調べられたら終わりという感はあるけど。
キャンピングカー消失のトリックは何がしたいのかよくわからず、結局理解できなかった。
謎解きとしてはトリックに頼りがちだとは思うが、水準はクリアしていると思う。山村美紗原作の2時間ドラマはよくあるけど、このまま2時間ドラマになりそうな雰囲気がある。サングラスの男とか雑誌記者とか事件を調べる男女二人組みとか。
欲を言えば、犯人をもっと芸術家らしくしてほしかった。せっかく芸術としての犯罪をやっているのに、最終章の「告白」では犯人の人間的な内面しか描かれていなかったので、そこが個人的には残念。犯罪全体の象徴的な意味合いを強め、犯人像を強烈にするためにも、最後まで犯人を狂気の芸術家として描いてほしかった。

それからこれは常々感じていることだけど、毒殺と密室は相性が悪いと思う。
毒殺は遠隔殺人が容易なので、密室は不可能ではなくなる。犯人が出て行ったあとで、被害者が内側から施錠し、毒物が入った飲み物を飲めばよいのだから。
だから密室ものにする際は、毒殺にしないほうが良いと思う。

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カーター・ディクスン『孔雀の羽根』


を読了。
久々に読むカーで、この作品はいろんなところで高評価を得ていたのを知っていたので、期待して読んだのですが……。
個人的にはいまいちだったかなと思います。ストーリーらしいストーリーはまったくなく、無味乾燥な容疑者の尋問が続きます。カーはストーリーテラーですが、この作品ではその才能はまったく活かされていません。
解決篇で、手がかり索引が出てくるあたりからしても、フェアプレイを意識しているのでしょう。フェアプレイや論理性を意識するあまり、話がぎこちなくなったのではないかと感じられました。もう少し読者を引き込むいつもの魅力を感じさせてほしかったものです。
密室トリックにはひとつだけ大きな偶然の要素があって、そこがどうも納得できません。このトリックもそれほど巧妙なものだとは思えず……。
しかしカーがこのような作品を書いたということは、カーのミステリに対する真摯な姿勢を表しているように思えます。RAYさんのところに、この作品の成立に関する鋭い指摘があります。なるほどと思いました。ページの下のほうにはネタバレがあるので注意してください。

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April 26, 2005

芦辺拓『紅楼夢の殺人』

を読んだ。
自作で書こうと思っていたネタとかぶってしまって、ショックで読んだ直後はまともに評価できなかった。被害妄想っぽくなったりした。しかし時間が経ち、あとがきと解説とインタビューを読んで落ち着いたので、いまならこの作品を正当に評価できると思う(それによく考えたらそんなにかぶっていなかった)。
一言でいえば大傑作だ。
いくつもの不可解な事件が起こるが、個々のトリックは小技だ。しかしこの作品の場合は、トリックは小技でなければならないと思う。この作品のキモはトリックにあるのではない。不可能犯罪が起きた理由と、全体の構造の奇想天外さにある。しかも真相は奇想であるばかりでなく、十分な説得力を持つ。
終わり方も美しい。そして(きっと僕の誤読だが)本格ミステリのメタファーにもなっている。紅楼夢は儚い夢として散ってしまう。それはすべての物語が持つ宿命のようなものだ。物語は終わらなければならない。
本格ミステリとは砂上の楼閣のようなものだと思う。本格ミステリには虚しさがつきものだ。それは、ラストで円環が閉じるからだ。謎が解かれ、真相が語られる。すべてはいくつかのアイデアのために語られたように思う。「なーんだ」という人もいるかもしれない。だが、それでも、本格ミステリは一夜の夢として貴いのだ。謎と解明の物語は美しいのだ。「満紙 荒唐の言(すべてでたらめのものがたり)」だとしても、だ。

ということを熱く語ってしまいたくなるほど、面白かった。

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April 17, 2005

鮎川哲也『ヴィーナスの心臓』

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を読んだ。
収録作品は、「達也が嗤う」「ファラオの壷」「ヴィーナスの心臓」「実験室の悲劇」「薔薇荘殺人事件」「山荘の死」「悪魔はここに」。
このうち「達也が嗤う」は『下り“はつかり”』で、「薔薇荘殺人事件」「悪魔はここに」は『五つの時計』で読んでいた。
面白いのが、問題篇と解答篇がわかれているところ。それぞれの解答篇はまとめて巻末にある。推理クイズの本か学習参考書みたいだ。
僕は推理力がないのでほとんど当たらなかった。
どれも読者へ挑戦するタイプの本格ミステリで、読者がきちんと推理すれば真相を導けるようになっている。中には短くて推理クイズのようなものもあるが、「達也が嗤う」などの傑作も、こうした推理クイズの延長線上にあるもののような気がする。そういう意味で、どの作品も楽しめた。
こういう短編集はいいな。僕も書いてみたい。
(ちなみに僕が読んだのは上のリンク先の電子書籍ではなく、古本屋で買ったものだ。)

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April 12, 2005

有栖川有栖『孤島パズル』

(bk1の検索がおかしいのは僕だけ? しょうがないのでAmazonだけにリンクを貼っておきます。)
を読んだ。
面白かった。
こういう青春こそミステリ好きが望む青春だと思う。
孤島に招待され、宝探しをしようとしているときに、殺人事件が起こる。密室。クローズドサークル。連続殺人。神のごとき名探偵の先輩。ちょっとしたロマンス。
こういう経験はぜひともしてみたい。僕はもちろんワトソン役。被害者はいやだ。犯人も無理。
ろくな感想になっていないが、読んだ直後に書くと、僕の場合たいていこうなる。何か考えたらここに付け加えるつもりだ。

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April 07, 2005

夏目漱石『硝子戸の中』


を読んだ。
解説は石原千秋。最近出た『漱石と三人の読者』の著者の人。
この解説にいろいろ啓発された。「読む」ということは難しいことだなと思う。
漱石はこの作品で「他人の心」に悩む。言葉が直接心を伝えないことに悩む。世間一般の人々と漱石に齟齬が生じるのは、漱石が「人の「心」に直接触れたいと思っていた」(解説より)からだろう。「正直に」「社交を離れて看破し合う」世間を要求していたのだ。しかしそれがないものだから、人を容易に信じられず、硝子戸の中から世間を諦観視する、ということになる。
しかし最後の一節で漱石は「微笑」する。連載した『硝子戸の中』にも自分は「もっと卑しい所、もっと悪い所、もっと面目を失するような自分の欠点を、つい発表しずにしまった」。要するに自分も、直接心を伝えるまでは、行っていなかった。それで「自分を軽蔑」し、「微笑」するのだろう。他人も「微笑」して眺められるようになる。硝子戸を開けるのは、そのためだろう。「本当の事実は人間の力で叙述出来る筈がない」からだ。言葉と心の問題に、少し日が差したわけだ。

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April 06, 2005

麻耶雄嵩『名探偵 木更津悠也』

の感想。
「白幽霊」……事件の構造としては面白い。しかしロジックが単純すぎる気がする。惜しい。
「禁区」……「奇妙な論理」の作品。「奇妙な論理」を受け入れることができれば、楽しめる。「幽霊」がいちばんうまく使われている作品だと思う。……しかし、あれだけで、知耶子はあのことを気づくかなあ。いくら勘がいいといっても。普通なんとも思わないと思う。そこが大きな欠点に感じられるので、う~む。
「交換殺人」……これは解けないなあ。とにかく交換殺人と無差別(?)殺人を結びつけた設定がすばらしい。途中でバンバン出てくる推理が(難解だが)面白い。途中が複雑な割には、真相はシンプル(?)。しかし手がかりが少ない。木更津先生にどうやって真相を見抜いたか、訊きたい。
「時間外返却」……いちばんストレートな作品。四作品の中では最も捻りがない。肝心の時間外返却も、そのままの解釈でいい。ロジックも納得できないし微妙な印象を受けた。
順番に春夏秋冬の事件になっている。「時間外返却」の最後にも「春夏秋冬」とあるから意図的なものだろう。巻末を見ると執筆した順番は違うようだが。白幽霊のモチーフからしても、一巻の短編集としてまとめる気だったのだろう。うまくしめる意味では、時間外返却で幽霊の正体を鈴子としたほうが良かったように思う。
全体的に地味な印象を受けるが、その理由の過半はワトソン役と探偵のゆがんだ関係にあると思う。つまり書き手が、謎に苦しまないし、探偵の推理に感動しない。だから、読者としてもいまいち盛り上がれないのだ。やはりワトソン役は少し馬鹿で、探偵の推理を聞いてやっと「ああ! そうだったのか!」と驚く人間がいいのかもしれない。

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April 05, 2005

国名シリーズの装画

ネタがないので、bk1に投稿した書評をコピペする。『スペイン岬の謎』の書評。

通称スペイン岬でジゴロが殺された。全裸にケープ一枚という格好で。なぜ犯人は被害者の服を脱がせたのか?

タイトルのCapeは岬とケープをかけたものだ。『フランス白粉の謎』のPowderと『チャイナ橙の謎』のChinese Orangeも、それとなく二重の意味を持たせている。

『エラリー・クイーンPerfect Guide』にはアメリカで当時出版されたときの書影が載っているが、注意して見てみると面白いことが分かる。

国名シリーズは『国名+もの+の謎』とタイトルが統一してあるのだが、書影には、トランプのダイヤのクイーンをバックにして、その『もの』に当たるものが描かれている。『ローマ帽子』には帽子、『オランダ靴』には靴、『ギリシア棺』には棺、『エジプト十字架』には十字架、『アメリカ銃』には銃、『シャム双子』には(これはそのまま)シャム双子、というふうにだ。

ところが上にあげた『フランス白粉』と『チャイナ橙』と『スペイン岬』だけは、そのパターンをはずしている。なぜか? もちろん二つのものを同時に指すことを暗示しているのだ。

『フランス白粉』でダイヤのクイーンをバックに描かれているのは(自信がないが)ブックスタンドだと思う。『チャイナ橙』には、鏡に写した橙色のダイヤのクイーンが描かれている。これは作品のテーマが「あべこべ」だということを示している。この二つの作品では、タイトルや装画さえも、一種のトリックであり、同時に手がかりなのだ。

『スペイン岬』の書影は、ケープをまとった全裸のジゴロの死体である。この作品の場合は、Capeがはやばやと岬とケープの二つを意味すると分かってしまうから、二つの意味を隠す必要がなかったのだろう。ダイヤのクイーンがなくなっている理由はなぜか分からない。

書影のことはこれくらいにしておく。

本書『スペイン岬の謎』は、クイーンらしい、論理でガッチリ固めた本格ミステリである。勘のいい読者なら思いつきで犯人が分かってしまうかもしれない。ネットで感想を見ても、これは分かったという人が多い。僕は分からなかったが……。

しかし、直感で分かることを、あくまで論理によって緻密に推理しようとする作者クイーンの姿勢は、首尾一貫して自分のスタンスを守ろうとするようで好ましい。

装画にまで細かく気を配ってフェアプレイに徹した作者に思わず脱帽したくなる。

クイーンはこういうことをやるから、僕は好きなのだ。
他にも、二人二役というミステリでもやらないことを、現実世界でもやっている。そこがすごい。

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