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August 14, 2005

推論の構造分析1

推論の構造分析を実際にやっていきます。(名前をすこし変えました)
簡単なものからいきます。性質上、完全なネタバレを含みます。当該の作品を未読の方は読まないでください。

まず麻耶雄嵩「白幽霊」(『名探偵木更津悠也』所収)。完全なネタバレです。
この作品は非常におもしろい構造で事件が組み立ててあるのですが、犯人を推理するロジックは非常に単純です。その部分だけを独立させて見てみます。

A、カーテンに切り取られてできた穴がある  + B、中村の証言
                           ↓de
                      犯人は背が低い     + C、容疑者たちの身長のデータ
                                     ↓de
                                  犯人は清美

手がかりAとBから、「犯人は背が低い」という結論が導かれ、その結論が手がかりCと結びついて、「犯人は清美」という結論を導いています。本当はもっと詳しいことを書き込んでもいいのですが、とりあえずこれで十分でしょう。
矢印の横にあるdeはdeduction(演繹)の略です。破線の矢印を書けないので、演繹だったら↓deと、アブダクションだったら、↓abと書くことにします。

「偽の手がかり問題」とはツリーの末端にある手がかりがニセモノかもしれない、という問題です。
結論から言うと、この手がかりABCはどれも偽の手がかりではありえません。
Cは偽の手がかりではありません。他人の身長を伸ばしたり縮めたりはできません。(ここで注意が必要なのは、読者にとっては、手がかりCは直接与えられたデータではなくて、作中の様々な叙述から判断しなければならない手がかりだということです。作品内の探偵と読者に与えられるデータとのずれがあります。この種のずれは、今後たくさん出てくると思います)
Bは偽の手がかりと考えられるか――つまり証言が嘘だと考えられるか。読者にとっては証言が真実であることは自明です。なぜなら地の文に彼が見たということが書いてあるからです。(ここでも読者が与えられるデータと探偵が与えられるデータにずれがあります。)探偵にとってはどうか。やはり偽の手がかりとは考えにくいでしょう。中村は外部の人間です。彼が犯人であるとか、犯人をかばっているとは考えにくいでしょう。それにこの場合は、一種の密室状況が、彼が犯人であることを否定しています。つまりBも本当の手がかりです。
Aはどうか。中村の証言が正しいとすると、この手がかりAも本当の手がかりと考えざるを得ないでしょう。中村が見ていることを期待して、カーテンに穴を開けてそこから顔をのぞかせるという演出をしたのでしょうか。しかし中村は真っ暗な路地にいたのだから、それは考えられないでしょう。

上のように、すべての手がかりが、偽の手がかりでありうるというわけではないのです。偽の手がかりとは考えられない手がかりがある、ということを、納得していただけたのではないでしょうか。

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