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July 13, 2005

ロジックと『毒入りチョコレート事件』

クイーンは何かのアンソロジーの序文で「演繹法による推理」という言葉を使っていた。『日本傑作推理12選 第1集』かな。日本の推理作家は演繹による推理を使っているのだろうか、という意味の記述だったと思う。
重要なのは、クイーンが自分のスタンスを「演繹」だと認識していたということだ。まさにこの言葉で自分の作品を表したということだ(しかも作品の外で、だ(作品の中の言葉などまず信用できない))。つまり無自覚にやっていたのではなかった。
ではここで「演繹」とは何を指して演繹といっているのか。もちろんロジックだろう。手がかりを拾い集め、他の可能性を排除しながら、真相へ近づいていく(遡行していく)ことだろう。
演繹による推理ではなかったら、どんな推理なのか。
『毒入りチョコレート事件』では、ひとつの事件に対していくつもの「解決」が出される。しかしこの作品の本当のすばらしさは、370ページの表にある。ここでは推理を分析してあるのだ。異なる推理法によって、異なる解決が出されているのだ。見てほしいのは「証明法」のところ。「帰納法」「演繹法」という言葉が目立つ。僕は最初これを読んだとき意味がわからなかった。(辞書を引いて意味を確認したくらいだ。)だが慎重に読み返してみて、やっと意味がわかった。
手がかりから確実なことを導き出し、事実に遡行していく推理を「演繹法」といっているのだ。逆に仮説をまず立て、それによって手がかりを説明する推理を「帰納法」といっている。僕には両者は完全に違ったものに見える。(これは僕の発見ではなくて、バークリーの発見なのだ。ミステリに論理学を導入したのだ。)
ミステリで例をとるのはわかりにくいから、論理パズルを引用して、話を進める。

ヘルナンドら4人は、ミリーのカントリー・レストランに毎朝ほかの客よりも早く訪れます。4人はどの日も同じ順序で到着してコーヒーを注文します。コーヒーに、ひとりはクリームと砂糖だけを入れ、ひとりはクリームだけを入れ、ひとりは砂糖だけを入れ、ひとりはブラックで飲みます。
以下の手がかりから、4人(姓はブラウン、フリン、リンダー、ラブル)がどの順で到着し、どのようにコーヒーを飲むか、あなたはわかりますか?

これだけの情報だったら、どうとでも考えられる。ミステリだったら、何通りもの多重解決ができる。だが手がかりがまったくない(シチュエーションがない)ミステリなどありえない。

1、最初に到着する人はクリームを入れます。4人目はクリームを入れません。

これだけ手がかりが与えられたとする。ここで活躍するのは、帰納法による推理だ。ひとつの手がかりと矛盾しない解決を思いつけばよい。運がよければ当たる。だが、運がよければ、だ。
ところが、演繹法による推理とはそれとは違うのだ。

2、ブラウン氏はクリームをいれず、ジョージより早く来ます。ジョージはクリームを入れます。
3、フリン氏はクリフより早く来ます。二人とも砂糖を入れません。
4、マット(クリームを入れない)は朝食にいつもホットケーキを注文しますが、リンダー氏とブラウン氏はいつも卵を注文します。

これでやっと解はひとつになる。つまり手がかりと真相が互いに必要で十分になるのだ。手がかりのひとつひとつを読み解き、ゆるぎない論理によって唯一の解を確実に見つけ出すことが演繹なのだ。
(もちろん、4つの手がかりがそろったとしても、帰納的に考えることはできる。まず適当に解を代入して、手がかりと矛盾しないか確かめればいい。)
そしてこういうミステリこそが、ロジックによるミステリ、「演繹法による推理」があるミステリなのだ。仮にもロジックを使う限り、作者は手がかり1だけを出して放置しておくことはできない。手がかり2,3,4も出さなければならない。解をひとつだけにするような手がかりを捻出しなければならないのだ。

まだ二つの区分がはっきりしないかもしれない。読者に真相が開示され、多数の手がかりがそれを保障したとしても、それはロジックではない。なぜなら、それは帰納的解決であり、したがって別解が存在するかもしれないことを示している。すべての手がかりを何通りもに巧みに説明することなどできるのだ。(詳しくは電ミスの第3回リレー小説を見てください。)そのことを『毒チョコ』は言っていると思う。事件の解釈は多様であり、真相など無限につむぎだせる。チタウィックにもその意味の言葉がある。
デビュー前のクイーンが『毒チョコ』を読んでいたかは、わからない。確か、読んでいた、という記述をどこかで見た気がするのだけれど……。クイーンの演繹推理の姿勢は、決してチタウィックの言葉によって損なわれるものではない。むしろ強化される。なぜなら、演繹的に推理するならば、必ず正解にたどり着くに違いないからだ。事件が潜在的に多重解決の落とし穴をたくさん持っているとすれば、演繹的に正しく推理させ、そういう穴をつぶしていかなければならない、というミステリに対する思想をもって、クイーンが書き始めたかもしれないのだ。
だからロジックものを書くときには、作り方も違ってくる。普通だったら手がかり1だけで満足してしまうだろう。真相はこうでした、この手がかりはこういうことです、と。だがロジックものはそうは行かない。手がかり2,3,4もちゃんと作らなければいけない。そして手がかりから論理的に導かれることを導き、真相に到達しなければならない。

論理パズルは↓から引用しました。

論理パズル101
小野田 博一 / デル・マガジンズ社
講談社 (1993.10)
通常2??3日以内に発送します。

上の論理パズルの解答欄。
      名         姓          コーヒー
最初
2番目
3番目
4番目


( )使いすぎた。

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