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July 16, 2005

「ロジックと『毒入りチョコレート事件』」の訂正

間違った!
先日の記事に演繹法と帰納法を対置して書いた。しかしあれは、大事な部分で重大な誤りを犯していた! 僕にはよくあることだ。よって僕の言うことは、信用しないでもらいたい。
「ロジックと『毒入りチョコレート事件』」で「帰納法」としている推理は、むしろ「直観」といったほうがいいと思う。笠井潔さんと似たような理論になるけれど、「直観」と「演繹」の対置のほうがしっくりくる。(MAQ氏の理論では、順に「解釈」と「解明」になる)
下の記事で何がいちばんまずい間違いかというと、手がかりから帰納する、と言っている部分だ。むしろミステリの謎解きにおける帰納とは、類似の事件を参照にして真相を推測する方法などになるだろう。たとえば、刑事のカンのようなものが働く場合(カンといっても経験によるものだろうから)。
下の記事で、論理パズルを例に取り、空欄を先に埋めてしまう方法は、帰納法ではなく、むしろ「直観」推理法と考えるべきだ。
というわけで、「ロジックと『毒入りチョコレート事件』」の記事中の、「帰納」の部分は完全に間違っているのだけれど、「演繹」について考えていることは、変わらない。そして「直観」や「帰納」が間違いの危険性をはらむのに対して、「演繹」が間違いの可能性を小さくする、という点でも、考えは変わっていない。

はあああああ。僕って駄目だな。

思わぬ部分で失敗していたので、ややわかりにくくなってしまった。まとめてみる。
津田裕城氏、MAQ氏、SAKATAM氏の「解釈の論理」/「解明の論理」は、「直観」/「演繹」と言えるのではないかと思う(ここでの直観は、いわゆるあてずっぽうじゃない。まあ「本質直観」かな)。
一般のミステリでは、「演繹」や「直観」のどちらも使われていることが多いように感じる。たとえば都筑さんの『退職刑事』もクイーン流のロジックとは違って、理詰めな部分と飛躍する部分がある。完全に直観でもなければ、完全に演繹でもない。また論理パズルで申し訳ないが、下の論理パズルでもある程度場合が絞り込めたら、答えをカンで代入して、手がかりと矛盾しないか確かめたほうが早い。多くのミステリはこのような「解かれ方」をすると思う。


「ひと口にいえば、探偵小説の根本にあるものは、因習的、先入主的な物の見方に対する反撥で、そのような浅薄な物の見方に対して、自分の眼で物を見る探偵が、個性ある結論を出す――その自分の眼で物を見る事の魅力だと思います。論理性は、その結論を導入するための道具に過ぎず、そして、論理にも、自分の眼が必要です。」
狩久の言葉(『鯉沼家の悲劇』光文社文庫の解題より引用)

「ポーが作り出した探偵(デュパン)は、そのような警察の実証主義に対立する。(中略)それは実証主義知性にとって見えないような謎を解明する知性主義でもある。」
柄谷行人の言葉(夏目漱石『彼岸過迄』新潮文庫の解説より引用)

上の引用二つは、似たようなことを言っている。警察が実証主義や帰納法や経験や常識によって犯人を捕らえようとするならば、探偵(もちろんミステリに出てくる探偵)はそれとは違って、あらゆる先入主を捨てて知性や論理(「直観」や「演繹」を含めた広い意味で)で、真相を見出そうとする、ということだと思う。

まだ間違いがあるかもしれないのでよく考えたい。ご意見をお待ちしています!

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Comments

はじめまして。言及していただいてありがとうございます。
こちらは前から拝見していたのですが、1日分読み飛ばしてしまっていたようです(『毒チョコ』とロジックの話が出ていてタイムリーだな、とは思ったのですが)。
7月12日の記事の作り手からの視点や、直観と演繹の対比などは興味深いです。私ももう少し考えてみたいと思います。

Posted by: SAKATAM | July 17, 2005 01:27 AM

SAKATAMさん、はじめまして。コメントありがとうございます。
「直観」と「演繹」については、以前からモヤモヤと考えていたので、SAKATAMさんの文章を読んで刺激を受け、ようやくまとめることができました。
「作り手の視点」といっても、ぼくは2,3作書いただけなので、おこがましいとは思ったのですが、ついああいう表現をしてしまいました。
推理という観点からミステリ全体を展望しなおすと、いろいろなことが見えてくるなあと感じています。
「黄金の羊毛亭」はいつも参考にさせてもらっています。では失礼します。

Posted by: ジュナ丸 | July 17, 2005 07:52 AM

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